· 

『GAFA~四騎士が創り変えた世界』

GAFA~四騎士が創り変えた世界』 スコット・ギャロウェイ著 東洋経済新報社

 

  GAFAとは言うまでもなく、 Google Apple Facebook Amazonのことです。一方四騎士とは、『ヨハネの黙示録』に登場する、「地上の四分の一を支配し、剣、飢饉、悪疫、獣によって、『地上の人間を殺す権威』を与えられている存在です。

 当初は、目次をパラパラとめくって、よくある陰謀論のたぐいかなと思いました。しかし実際に読んでみると、論旨は精緻で説得力に富み、読みごたえがありました。著者のスコット・ギャロウェイは、ニューヨーク大学のMBAコースの教授ですが、自らも何度か起業し、100人を超える従業員の会社を経営していたこともあるそうです。

 内容は、GAFAのそれぞれ企業についての各論から始まり、彼らの成功の要因を分析し、その次に来るであろう企業を列挙し、最後に我々がGAFA時代に生き残るための武器について論じています。

 著者は結論として、GAFA以後の世界は「少数の領主と多数の農奴」から成る世界になると予測しています。それはこれらの企業が、小規模の国家に匹敵する資産を持ちながら、かつての大量生産・大量消費時代の巨大企業に比べて、格段に社員数が少ないからです。

「そこにあるのは報酬が高い仕事が少しだけで、それにあぶれた人が残り物をめぐって争っている。(中略)いまほど億万長者になるのは簡単だが、百万長者になるのが難しい時代はかつてなかった」つまり、一部のITスキルの高い人間が富を独占し、一般の人間が努力して成功を掴むのは困難になったというのです。アメリカン・ドリームの国からの指摘だけに衝撃的です。

 しかしその一方で著者の指摘する問題は、IT技術の革命的進歩によるものというよりも、人類社会が幾度となく繰り返してきた歴史の縮図のように思えます。少数による富の独占という問題は、資本主義の興る遥か以前から存在し、もちろん現在も完全に解決していません。それは人類がまだ野生動物だった時代から持つ、競争相手を打ち負かして生存しようとする本能と関係しているからでしょう。

そしてもう一つ、私が本書を読んで衝撃的だったのは、マイクロソフトについての記述がほとんどなかったことです。Windowsは今でもOSの世界標準ですが、もはやマイクロソフトは革命的企業でも、世界征服をたくらむ危険な企業でもなくなったのでしょう。90年代後半の雰囲気を覚えているだけに、若干のさびしささえ感じます。そう考えると今から20年後には、私たちのまったく知らない企業が世界市場を支配し、GAFAはその後塵を拝している可能性もあります。時代はそれだけ急激に動いているのです。

 ともあれ、近年のIT技術の進歩により、私たちの社会が大きな転換点に立っているのは間違いありません。今後のAIの進歩によって、それはますます加速していくでしょう。ですがその一方で、人間の本質がこの数千年変化していないことも事実です。IT時代に私たちがどう生きていくかを考える時、そのことを忘れてはならないと思います。

 

(宮下隆二)