作 工藤 直子 絵 長 新太 理論社
稲室 直樹
この本に出会ったのは、大学3回生の夏。広島のある本屋さんでした。私は、当時熱中していた影絵劇サークルをやめ
(教員採用試験のため3回生の夏に引退するのがこのサークルの通例になっていました)、ふらふらしていました。ふらっ
と入った本屋さんで、くじらくんといるかくんが、そんな私に声をかけたのです(本屋さんで、本が私を呼ぶことはよ
くあります。でも、物語の主人公にあんなに優しく声をかけられたのは初めてでした)。そのときの私は、寂しかった
のです。サークルをやめてしまって。子どもたちともっとつながっていたかった私は、人形劇団や、親子劇場の活動に
参加することを考えていました。でもそれでは、採用試験の勉強や卒論に差し支えるのではないかとも考えていたので
す。そこへ二人が、「笑ったり、ひるねしたりするのは、とてもいいことだよ」「まぁ、ぼちぼちいこうよ。」と声を
かけてくれました。それ以来この言葉が、私の座右の銘になっています。
この物語は、なにもない海で寂しいくらい静かだと、コドクがすきでも「だれかとお茶を飲みたくなるイルカ」と
「だれかとビールを飲みたくなるくじら」が出会うところから始まります。二人は、それぞれの家に行き、お茶とビー
ルを飲んで(コドクもいいが「いっしょ」もわるくないな)と思います。そして、さまざまな魅力的なエピソードが
展開します。あるすごい夕立の後、二人は虹を見つけます。今までにないほどきれいな虹です。しかも贅沢なリボン
のように二つ並んで。二人は全速力で泳いで虹を捕まえようとします。虹ばかり見つめて泳ぐので、目の中に、色が
あふれてちかちかするくらいがんばりましたが届きませんでした。二人は、「雨が止んだらすぐ走り出そう」「こん
どこそつかもうな」と約束します。私も、子どものころから、虹を見つけると虹をつかもうと走り出していました。
虹のたもとに行って自分を虹色に染めたかったのです。大きくなって自転車で追いかけるようなっても、なかなか虹
に追いつけるものではありません(中学生の時、自転車で追いかけてもう一歩のところまでいきました)。そしてつ
いに、私は車を手に入れました。ダイハツのミラ。小さな牛乳パックのような車でした。今度こそこれで追いつける
と思いました。
ある日、洲本へ買い物に行った時です。三熊山の方向にとてもきれいな虹を見つけました。これはチャンスです。
全速力(お巡りさんにつかまらない程度に)で、虹に向かいました。でも、車はスピードは出ますが、細い道には入
っていけません。何とか近くまで行けたものの虹のたもとまでは行けませんでした。退職したら、虹追跡専用バイク
の購入を考えているところです。
私は、元気で活動的ないるかくんも好きですが、どちらかというと本が好きでビールが好きなくじらくんが大好きで
す。私もくじらくんに憧れて、本を読むときには、ビールを飲むことにしています(ただ単純にビールが好きなだ
け?)。そして、ときおり哲学をしてしんとなったり、眼鏡をかけて心理学の本を読んでココロの中をのぞき込んだ
りしています。
こんな私も、先生になって〇十年。本当にいろいろなことがありました。うれしいこと、楽しいこと、もちろん悲し
いことも。通勤途中海岸沿いを走っていて、このまま海へ飛び込んだら楽になれるかななんて考えたこともありまし
た。そんなとき、いつも私を励ましてくれたのが彼らでした。
今、新型コロナウイルス感染症の影響で学校も課題が山積みです。感染症予防と子どもたちの学びをどう両立させる
のか。難しいかじ取りの中で、先生も子どもも疲弊してきているのは否めません。こんな時こそ、笑ったりひるねし
たりして、ぼちぼちいきたいと思います。
明けない夜はありません。「またあした」です。